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pornography もしくは空想の限界



じん







春の静かな雨に
せつない夜が更け
遠いくちづけの記憶が
饐えた匂いを放つ
仄白いからだを横たえ
おまえはおれの裡に息づくだろう
短い命の灯(ひ)よ





そばにいる必要はないが 想う女がいなければ男は生きてゆけない





おまえは果実
ほのかにあまくにおいたち
みずみずしくはりきって
それでいてやわらかい
くちびるにはじけ
舌さきにとろける
おまえは女という
たわわな果実





まるいちぶさ
てのひらに

あたたかに
やわらかに
なめらかに

たわわにちぶさ
てのなかに





「愛する」ことはらくだった
体をぶつけていればよかった
理解なんて必要なかった
心の闇にわけいろうとして失った
おまえを――





あったかいものが欲しくなる
おんなを抱いていたくなる
そんな寒さと向きあっている





届かない手
届かない声
遠いひとよ
傷ついた心で
どこをさまよう





愛みちて愛に麻痺する悲しみを知るは愛なき飢え永きとき





やわらかくあったかいものにつつまれる欲望だけがひりひり尖る





降りつづく雨 雨 雨
閉じ籠められた男が
みだらに朽ちてゆく





おれはハイエナおまえは腐肉
食い食われ一体となる荒寥の
……





赤いくちびる
赤いくちびる
吸いつくせない
赤いくちびる





やわく
ぬくみ
まるく
ぬれる
あかい
くちびる
おまえの
いりぐち





おまえのくちびる見まもって
ことばが出るのを待っている
それともくちびる押しあてて
こころを吸ってしまおうか





もてあそべばいい
きずつけてもいい
きりきざんでつかみだす
それがふたりのきずななら
それでいい





十一月の雨は夜にしみいるおまえのしずく





なぜ飾る
素顔のおまえを見たいんだ
飾るな
隠すな
素顔のままを愛したいんだ





解いた縛めの数をかぞえあげながらなお新しい縛めに酔っている
薄汚れた縄のひとつひとつがまるで美しい想い出でもあるかのように





口に含んで吸ってみる
舌で転がし噛んでみる
こりこり甘いさくらんぼ
ときどき酸っぱいさくらんぼ
おまえのような さくらんぼ





昏睡と覚醒のはざまで
女を思い
死を想い
眠りの波に呑まれてゆく
ふたたび目覚めるだろうか
死のうちに
あるいは生に





管が棒を呑みこんで一匹の虫となり暗黒の宙を蠕動する





おまえの秘密がおれの秘密を呑みこんでゆく
圧迫し潤滑し弛緩し収縮している





乳房ふるふるふるえ
うすくれないの乳首
舌先にもてあそべば
ころころころがる珠玉





欲望が剥き身でここに立っている





優しさは肉を得るための罠
熱情は性急な欲望の暴走
永遠の愛など一瞬の偽善





女ガ欲シイ

温モリガ欲シイ
と置換する
ヤリタイ

サビシイ
と置換する
去勢された言葉で痴漢する





おまえの表情が移り変わってゆく それをただじっと見ている





Pornography ~ 妄想 みずからを抑圧する自我の呻き

Pornography ~ 妄想 もしくは想像力の限界





おれの日々に挿まれた
おまえは一葉の栞

きょうは ここまで
あしたは ここから

いちにちを閉じるとき
おまえがそこにいる

いちにちを開くとき
おまえがそこにいる





いちど満たされると
つぎを求めてしまう
いけないと言われても

いちど満たされたから
つぎも満たされると
つい思ってしまう

いちど満たされたはずなのに
二度と満たされない
あせり

戻りたい
でも戻れない
いちど満たされた
あの時へは

だから……つぎへ……





おまえのからだの
どこにふれるより
手をにぎっていたい

ふしぎだね手って

にぎっていると
おまえのきもちが
わかるんだ





小さな箱が
ひとつほしい
心にあふれた想いを入れて
ときどき中を覗いてみると
おまえの笑顔がひそんでる
そんな小箱が
ひとつほしい





愛する前に寂寥に堪えるすべを学べ





せつなさだけが
残っている
夢のなかみは
思い出せない
女が一人いたかもしれない
せつない破片が胸を刺す





肉を穿つと底がある
心を穿つと底がない





夜空を見上げる
瞳の奥に
きらきら星が輝いて
夢中でおれは
それを見ていた
視線が合ってそらしたら
小さな口があったので
思わずそっと吸ってみた





いけないな
そんな切ない目をしちゃ
囚われて
視線を逸らせなくなってしまう
 
いけないよ
そんな寂しい目をしちゃ
抱きよせて
瞳の奥を愛してしまう





impo-tinpo
tinpu-tinpo



† 

「愛液ってホントはなんて言うんだっけ?」
女が聞いた
「バルトリン腺液」
……たしかに覚えにくい





浮揚する臓器
落下する神経
乖離の狭間に
炸裂する快感

空白の時を刻みつつ
一塊の肉体が
闇に昇華する



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