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kougan no hanashi by Jin








00. まえがき  01. 作文  02. 暗号  03. 山田風太郎  04. 小さな袋  05. 急性膀胱炎  06. おしっこ袋  07. 替え歌  08. 土佐の女  09. 肝っ玉  10. 呼び方  11. きんたまの語源  12. 睾丸  13. 右か左か  14. 金癖  15.睾丸の図  16. 豚の睾丸  17. 犬のふぐり  18. 子のふぐり  19. 卒寿のふぐり  20. 焼酎  20-2. よみ人知らず  21. パロディ  22. 放送禁止歌  23. 和製漢字  24. へのこ  25. 尻子玉  26. 略称  27. ダルマサンガ転ンダ  28. 誤読  29. 看板  30. ラクダの睾丸  31. 風船唐綿  32. きんたまの語源補遺  33. 物体  34. 新メニュー  35. セット・メニュー  36. 去勢牛  37. 山の牡蠣  38. 睾丸の串刺し  38-2. 炉端焼き  39. 信楽の狸  40. 狸のきんたま八畳敷き  41. 民話1  42. 民話2  43. 駄洒落  44. 龍馬の手紙  45. 二・二六事件秘話  46. ぶら金  47. きんたま握り  48. きんたま探り  49. 上がったり下がったり  50. 縮み上がる  51. きんちぢみ  52. むじな  53. けえっぺ  54.誤植  55.サラミ  56.なぞなぞ  57.地名  58.美少年とタマ自慢





読者の声・反響も
こだま(木霊) として載せていきます。
「13. 右か左か」に change さんから こだま 1




00.
 
まえがき
 
日ごろ陽のあたらない存在に光をあてたいと思う。
下半身の話だから下ネタにちがいない。
ただ、ぼくは案外まじめに考えている。
ワイセツには落ちない。
ときどき脱線するかもしれないが・・・
 
 
目次
01. 作文
 
小学生の作文に“きんたま”とあった。
女先生、
「この言葉はちょっと困るわね。
なにかきれいな言い方はないか考えてごらんなさい」
生徒、
「は~い!」
しばらくして生徒が持ってきた作文には、こうあった。
“きれいなきんたま”
 
 
目次
02. 暗号
 
戦争が勃発したとき、 国連は軍隊を派遣した。
わが国はどうすべきか――
ある国の政府内部で、カンカンガクガクの大論争がもちあがった。
結局、 ニューヨークにいる国連大使に状況を聞いてから態度を決めようということになり、ただちに連絡がとられた。
折りかえし返事がきた。
文面はたったひとこと――
“きんたま”
閣僚たちは暗号表を持ちだしたり辞典をひっくりかえしたりして解読に努めたが、皆目わからない。
それを見ていた掃除係のオヤジサンが、せせら笑って言った。
「あんたら大学を出てて、そんなこともわからんかな?
“協力すれど介入せず”ちゅうことやないの」
 
わかります?
この笑話は有名らしいから、ご存じかもしれない。
バリエーションもさまざまある。
ここでは開高健の書いていたものをもとに紹介した。
ぼくははじめ、意味がわからなかった。
 
 
目次
03. 山田風太郎
 
手土産を玄関で奥さんに渡して応接間に通る客がいる。
奥さんがお茶を持ってきて風太郎に報告する。
「けっこうなものをいただきましたのよ」
「いや、それはどうもありがとう」
風太郎も礼を言う。
そこはかとない雑談のさなか、客がふと聞く。
「干し柿なんか、お好きですか?」
「えっ、干し柿? 大嫌いです!」
なぜか風太郎、言下に一蹴。
「あんな、粉を吹いたきんたまみたいなものを食うやつの気が知れない」
客が帰ったあとで奥さんが、あらためて報告する。
「あの、干し柿をいただきましたの」
 
これは「知らぬが仏」というエッセイにあった話。
 
 
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04. 小さな袋
 
山田風太郎はパーキンソン病という、やっかいな病を患っていた。
ある新聞のコラムに登場したとき、最近は一日に原稿3枚から5枚しか書く気力がなくなった、という話につづけて、こんなことを言っていた。
「大きな袋にアイデアや色気といったものが充満しているが、それだけじゃ書けない。
そばに小さな、原動力になるきんたまみたいな袋があってね、それが空っぽになった感じだな」
 
きんたまは、小さくとも、男のエネルギーの源であった。
 
 
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05. 急性膀胱炎
 
睾丸の話からは、ちょっと逸れてしまうけれど、ついでだから、山田風太郎の逸話をもうひとつ続けたい。
これは、「麻雀血涙帖」という随筆に書かれていた話である。
 
 
風太郎は家庭麻雀が好きだった。
といっても強くはない。
真冬に寒風を突いて銀座のバーをはしごした。
翌日から全身に悪寒を覚え、食欲がなくなり、小便が完全に出きらないような感じになった。
そこへ、かねての約束どおり麻雀のメンバーが押しかけてきて卓を囲んだ。
風太郎、急に尿意をもよおす。
それから30分おきくらいに彼はトイレに駆け込まなければならず、しかも途中から間にあわなくて廊下にこぼしながら走るありさま。
さらに小水はオレンジ色から鮮紅色になり、血そのものを流し出しているような恐ろしさ・・・
前夜の寒気と暴飲のため急性膀胱炎を起こしてしまったらしい。
それを見て、中学生になったばかりの娘さんが言った。
「おとうさん、生理じゃない?」
 
 
目次
06. おしっこ袋
 
むか~し昔、おしっこは、きんたま袋に溜まるものだとばかり思っていた。
それにしては小さい・・・
このちっちゃな袋にホントに入るのか?
ふしぎだった。
 
 
目次
07. 替え歌
 
「クワイ河マーチ」の替え歌というのがある。
第2次世界大戦中にイギリスで流行ったそうで、当時のナチス・ドイツの指導者たちを歌いこんでいる。
 
“ヒトラーには玉が1つしかない
ゲーリングには2つあるが、ちっぽけだ
ヒムラーは、これまた同じ
ゲッベルスと来た日にゃ、まったくの玉なしさ”
 
引用は1995年5月26日付「朝日新聞」の天声人語によった。
天声人語子は書いている。
“敵の小胆ぶりをさげすみ、国内の重苦しい気分を晴らすのに、どこの国の人々も替え歌に頼るしかなかった”と。
 
玉といっても、その意味したいところは肝っ玉である。
きんたまは、しばしば肝っ玉の代用にされる。
それにしても、“玉なし”なんていう俗語がこの格調高いコラムに登場するのは、空前にして絶後かもしれない。


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08. 土佐の女
 
坂本龍馬に代表される、気骨に満ちた土佐の男をイゴッソウと呼ぶ。
これはご存じのとおり。
では、そのイゴッソウ顔負けの、まことに頼りがいのある女を土佐ではなんと言うか――
“ハチキン”
である。
イゴッソウの語源はわからないが、ハチキンならわかっている。
男が2つしか持っていないきんたまを、8つも持っているような女のことだ。
八金と書く。
もちろん、きんたまは実際の睾丸ではなく、肝っ玉の意味である。
八金の代表は、ほかならぬ龍馬の姉、乙女(おとめ)だった。
 
この言葉は、辞書ではお目にかかったことがない。
 
 
 ⇒ 43. 龍馬の手紙
 
 
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09. 肝っ玉
 
肝っ玉とはしかしなんだろう。
 
辞書を引くと、“きもったま【肝っ魂】”と見出しにある。
魂である。
“肝っ玉とも書く”と付記されている。
で、肝っ魂は肝魂(きもだま)の強調形。
“あわてたり恐れたりしないで、何事もやりとげる精神”の意。
文例として、“肝っ魂がすわっている(=大胆で、物に動じない)”があげられている。
辞書は三省堂「新明解国語辞典」第4版を参照した。
 
魂や精神だから、きんたま袋のなかに潜んでいるわけではない。
近くならヘソ下三寸、遠くなら脳のなかに存在するか・・・
ともかく実体のはっきりしないものにちがいない。
しかし、肝っ魂というものが人間のなかに“実在”することは、まちがいない。
 
 
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10. 呼び方
 
睾丸(こうがん)
精巣(せいそう)
金玉(きんたま)
玉(たま) 
玉々(たまたま)
 
テスティキュルス(testiculus) 学名
テスティクル(testicles) 英語
ボール(balls) 英語の俗語
ホーデン(hoden) ドイツ語
パッレ(palle) イタリア語
コリオーネ(coglione) イタリア語
オーキス(orchis) ギリシャ語
ガォワン(睾丸 gaowan) 中国語
 
へのこ
布久利(ふくり ふぐり)
陰嚢(いんのう)
きんたま袋(ぶくろ)
  ・
  ・
  ・
各国語での表記をあげたらきりがない。
方言もある。
俗語あり、隠語もある。
フクロとタマを厳密に分ける場合あり、そうでない場合もある。
とりあえず以上にとどめておく。
これは! というのがあったら補充してゆきたい。
 
 
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11. きんたまの語源
 
きんたまの語源はなんだろう。
金色をしているのだろうか。
 
きんたまそのもの――つまり陰嚢の中身を、ぼくは実際に見た経験がない。
残念である。
 
作家で医学博士の渡辺淳一が「新釈・からだ事典」という本を書いている。
そこには、こうある。
睾丸は、
“精細管という細い管が何重にも巻きついて球状になっている。
ちょうど、野球の糸巻きボールのような感じで、この上を白い結合組織の膜がおおっているため、全体に見ると白く輝いて、光沢がある”。
 
 *「15. 睾丸の図」を参照のこと


“白く輝いて、光沢がある”
だから、きんたまと命名した、ということらしい。
 
別の考え方もある。
男の大切な器官で、まるい物体だから金の玉としゃれた。
 
ぼくは――
きんたまとキモッタマもしくはキモダマは似ている。
きんたまの語源はそのあたりに潜んでいるんじゃないか、と睨んでいる。


「広辞苑」の編者として知られる新村出(しんむら・いずる)に「犬のふぐり・松ふぐり」という随筆がある。
そこには、 こんなふうに書かれている。
松ボックリを関西では松フグリと呼ぶ。
日本で最初の分類式百科事典「和名抄」の形体部には、
“陰嚢、俗名布久利”
とある。
もっとさかのぼれば、一般に、ふくらみがあって垂れさがっているものをフクロとかフクリと呼んだ。
まるまるふくれて釣糸の先に垂れさがる河豚(フク、フグ)の語源も、そこにある。
肺も大昔にはフクフクシと言った。
以下、新村出の言葉をそのまま引用する。
この “フクフクシという肺の名が、キモを表すことにもなる。
キモダマという俗語もあるが、今日の testiculus の俗語キンタマがこのあたりから派出したのかもしれない。”
 
testiculus は睾丸の学名。
 
キモは肺だったのか・・・
胸のなか、いわゆるハートのことだろうか。
解剖学以前の話である、厳密に考えてもしかたがない。
とにかく、碩学の新村出さえ“かもしれない”と保留しているのだから、結論を急がず、きんたまの決定的な語源説は、まだない、としておこう。


 ⇒ 32. きんたまの語源補遺


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12. 睾丸
 
睾丸は、きんたま。
男の生殖器の一部で、陰嚢のなかの硬い玉。
精子をつくり、男性ホルモンを分泌する。
だいたいの国語辞書には、そう書いてある。
フクロが陰嚢、タマが睾丸。
 
ただ、睾丸の睾の字にも、フクロの意味があるらしい。
睾は、もとは〓(パソコンにこの字なし。嚢の上の部分+咎+木)と書いた。
ユブクロと訓じ、弓をいれる袋の意味。
だから睾丸は、タマが袋にはいっている状態をさす。
 
 
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13. 右か左か
 
日本の紳士が、ロンドンで洋服を仕立てようとした。
はじめての経験である。
いろいろサイズを測ってもらっていたら、こう訊かれた。
「Which way?」
どちら側にしましょう?
紳士は意味がわからず、返答に窮した。
 
山田雅重の「アメリカ人の知らない英語」という本に載っていた話。
これはつまり、
「ズボンをはくときに貴殿の testicles(睾丸)は右側にありますか? 左側にありますか?」
と質問されているのだ、と山田雅重は書いている。
右か左かによって、微妙に寸法が異なるものらしい。
ふつうは左。
右にある人もいるのだろう。
 
直接 testicles という単語を使わずに語りかける婉曲表現のゆかしさ。
それが通じないもどかしさ・・・
 
しかし、右にせよ左にせよ、かたよっている実体は penis である。
testicles は、それに引っぱられて若干かたよるにすぎない。
ロンドンの仕立屋は penis という言葉も testicles という単語も使わずに日本の紳士に問いかけた。
山田雅重は読者に説明するために、やむなく testicles という言葉を使った。
どちらも口にするのがはばかられる単語を避けた婉曲表現だった。
 
とすると、一般に testicles は penis よりも口にしやすいことになる。
きんたま、睾丸は、ペニス、オチンチンよりも口にしやすいことになる。
 
 
こだま 1
“笑い話だったかなぁ。
知ってるよ。
仕立て屋さんで
「お住まいはどちらですか?」
って聞かれた紳士、
「○○市です」
って。
仕立て屋さんは、
「いえ・・・右か左か・・・」
って。
仕立て屋さんではよくある話・・・。”
 
これは、玉造郡!に住む change さんという女性(たぶん・・・)からいただいた。
ありがとう。
 
 
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14. 金癖
 
男のイチモツが右にあるか左にあるかを、俗に金癖、キングセと言う。
はっきりは知らないが、90パーセント以上が左ぐせ――左にあるという話を聞いたことがある。
だから、既製の男性用ズボン、スラックスのジッパーは、みな右開き。
右手を突っ込んで左側にあるイチモツがとりだしやすいようにできている。
注文紳士服の店で仕立てるときは、わずかな右ぐせの人のことを考えて、いちおう確認をとるらしい。
ぼくは仕立ててもらった経験がないから知らない。
 
 
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15. 睾丸の図
 
睾丸の図
 
睾丸の図を入手したので、ご披露する。
入手先は中国系の某サイト。
 
読めない漢字は推測していただきたい。
 
しかし図とはいえ妙に生々しい。
白くて卵そっくりだ。
中国語で睾丸は、“gaowan”。
“ガォワン”と発音するらしい。
もしくは“カォワン”かな?
http://www.zgxl.net/sljk/imgbody/gaowan.htm
 
 
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16. 豚の睾丸
 
豚の睾丸
 
写真は「サイボクぶた博物館」というサイトから借用した。
サイボクとは、㈱埼玉種畜牧場の略だ。
以下の知識も、このサイトで勉強させてもらった。
 
豚はたくさん子どもを産む。
多くの精子が必要になり、睾丸が発達する。
生まれたばかりの子豚でギンナンくらい。
50キログラムの豚でイチジクくらい。
成熟すると、ラグビーボール大に発達する豚もいる。
充分に発達すると、副睾丸が睾丸の上に見えてくる。
このような雄を選んで種つけをすると、たくさんの子豚が産まれる。
副睾丸とは、睾丸でつくられた精子を充分に成長するまで蓄えておく保管室のことだ。
 
また、精子は一定の温度のなかでしか生きられない。
暑いときは体温で温まらないように睾丸が下がる。
寒いときは体温で温まるように睾丸が上がる。
陰嚢が伸び縮みする、わけだ。
 
「サイボクぶた博物館」は、ほかにも面白い話題にトンでいる。
URL をクリックすれば直行する。
http://www.saiboku.co.jp/museum/index.html
 
 
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17. 犬のふぐり
 
イヌノフグリという草がある。
春に田んぼの畦(あぜ)や野っ原などに群生していて、薄赤い花をつける。
在来種である。
オオイヌノフグリというのが外来種で、こちらは青い花をつける。
いまや外来種のほうがはびこっている。
 
在来種のイヌノフグリについて、「広辞苑」にはこうある。
“実(み)は扁平で、縦に凹線があり、二個のように見える。
名はこの実の形による”
 
実ではなく、
「薄赤い花が犬の陰嚢のように見えるからイヌノフグリという名がついたのだろう」
と、ぼくは思っていた。
それには、学生時代に知った芥川龍之介の短歌の影響もあったような気がする。
「犬」と題した、こんな歌だ。
 
我が前を歩める犬のふぐり赤し
     冷たからむとふと思ひたり
 
同じことを芥川は、散文でこうも書いている。
“僕は全然人かげのない松の中の路(みち)を散歩してゐた。
僕の前には白い犬が一匹、尻を振り振り歩いて行つた。
僕はその犬の睾丸を見、薄赤い色に冷たさを感じた。
犬はその路の曲り角に来ると、急に僕を振り返つた。
それから確かににやりと笑つた。”
             (「鵠沼雑記」より)
 
犬のふぐりは空冷式である。
実際に冷たいかどうか、触ったことはない。
去勢した犬の、睾丸を取り去ったあとの袋なら触ったことがある。
ヒラヒラと風になびくような感じだった。
 
わが家の駄犬を後ろから抱え上げ、 のぞいてみた。
去勢手術もしていないのに、ふぐりなんかついていない。
メスだったな、こいつは・・・
 
 
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18. 子のふぐり
 
赤ちゃんのふぐりは、すべすべときれいな肌色をして、ほんとうにかわいい。
 
新樹光 産湯に伸びて 子のふぐり
 
今瀬剛一という人の句。
大岡信「折々のうた」から引用した。
“男の赤ちゃんが親にすべて任せきって、いかにも気持ちよげに眼をつむり、人生最初の新緑の光を味わっている姿が眼に見える”
と大岡信は評している。
 
つぎは村上鬼城の句。
 
鹿の子の ふんぐり持ちて 頼母しき
 
“ふんぐり”と“ん”の字がはいったのは言葉の勢いだろう。
字数のおさまりもいい。
 
しかし、人間にせよ鹿にせよ、子のふぐりだからこそ俳句になった。
成長したふぐりでは句にならない。
 
 
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19. 卒寿のふぐり
 
赤ん坊のふぐりは俳句になる、成人のふぐりでは句にならないと書いた。
とんでもない。
こんな句があった。
 
初湯殿 卒寿のふぐり 伸ばしけり
 
作者は阿波野青畝。
90歳の枯れて皺くちゃなふぐりが、正月の初湯のなかで伸びをしている。
キラキラと新しい年の日の光が湯殿に射しこんで――
そんな情景が浮かんでくる、いい句だ。
 
 
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20. 焼酎
 
ある人に、こんな話を聞いた。
 
――20年ほど前、会社の同僚みんなで飲みにいった。
とりあえずビールを頼んだあと、あれこれオーダーした。
新卒で入ってきた女の子が、「タマミガキ焼酎ってなに? おいしいですか?」
みんな、なにを言っているのかわからない。
店を見回すとあった、球磨焼酎。
「なるほど、タマミガキ焼酎か」と一同大笑いになった。
彼女はいま居酒屋の女将となり、焼酎・日本酒のソムリエである。
 
 
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20-2. よみ人知らず
 
むかしより 玉みがかざれば 光なし
        ふぐりのあたり よくぞ洗わん
 
磨くには球磨焼酎がいい。
アルコール消毒だ。
もったいないか・・・
ともかく、タマもアタマも磨かなければ。
 
 
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21. パロディ
 
野球は巨人、相撲は大鵬。
この二者が大活躍して常勝をつづけていたころ、お定まりの3つを並べた、こんな言いまわしが生まれた。
「巨人 大鵬 目玉焼き」
 
すぐに、しょうもないパロディができた。
書きとめておく人もいないだろうから、せめてここに記録しておきたい。
 
「巨チン 大鵬 玉ふたつ」
もしくは、
「巨チン 大砲 弾ふたつ」
 
 
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22. 放送禁止歌
 
「金太の大冒険」
作詞・作曲 つボイ ノリオ

01. ある日金太が歩いていると
美しいお姫さまが逃げてきた
「悪い人に ねぇ いま追われているの
お願い金太 守って!」
金太守って
きんたまもって
金玉持って~
 
02.しかし金太は喧嘩が弱い
友達とやっても負けてしまう
腕力に自信のない金太君
喧嘩はいつも負けが多い
金太負けが多い
きんたまけが多い
金玉毛が多い~
 
03.やがて悪人がやってきた
身の丈2メートルもある大男
金太と悪人の大血戦
「金太負けるな!」とお姫さま
金太負けるな
きんたまけるな
金玉蹴るな~
 
04.悪人は金太に襲いかかる
金太は思わず飛びのいた
そこにあったは大きな木
その周りを金太はグルグル回り出す
金太回った
きんたまわった
金玉割った~
 
05.悪人はいつか目を回し
その隙にお姫さまと逃げ出した
お姫さまの美しさに金太君
目をパチパチ瞬いた
金太瞬いた
きんたまたたいた
金玉叩いた~
 
06.しばらく行くと二人は
おなかがすいたのに気がついた
ふと見るとマスカットの木が生えている
金太はナイフで切ったとさ
金太マスカットナイフで切る
きんたますかっとナイフで切る
金玉スカッとナイフで切る
(痛ソォ~)
 
07.おなかの膨れた二人は
さらに安全なマカオに行くことにした
行けども行けどもマカオは見えず
お姫さまはイライラして金太に訊いた
「ねぇ金太 まだ?」
ねぇきんたまだ?
ねぇ金玉だ~ッと
 
08.そうしているうちにも二人は
やっとのことでマカオに着いた
金太とお姫さまはマカオに着いた
やっとのことでマカオに着いた
金太マカオに着く
きんたまかおにつく
金玉顔につく
(クッソォ~)
 
09.マカオに着いた金太君
知り合いのビルを訪ねたとさ
お姫さまはそのビルを見て言ったとさ
「まぁ金太 わりとましなビルね」
まぁ金太ましなビル
きんたましなびる
金玉しなびる
(可哀ソォ~)
 
10.中に入ると誰もいない
伝言板にただ一言書いてある
神田さんから金太君への言づてで
「金太待つ 神田」と書いてある
金太待つ神田
きんたまつかんだ
金玉つかんだ~
 
(ending)
ご存じ金太の大冒険
これから先はどうなるか
またの機会をご贔屓に
それではみなさん
さよ・おなら~♪
 
1975年8月25日、エレックレコードよりシングル「金太の大冒険」発売
1975年9月15日、放送禁止歌に指定される
以後、
?年?月?日、発売元エレックレコード倒産
?年?月?日、ユピテルレコードより再盤を発売
?年?月?日、ユピテルレコード倒産
1989年ごろ、HIMEという女性グループがこの曲を吹き込み、直後に解散
などの受難を経て、ついに
1996年6月5日、天下の東芝EMI よりこの曲を含むCD「あっ超ー×つボイノリオ」が発売される
税込み価格2800円
 
ぼくはこのCDを、お金を出して買った。
 
 
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23. 和製漢字
 
門のなかに由と書いて、“ふぐり”と読むらしい。
ふつうの漢和辞典には出ていない。
パソコンにも搭載されていない。
中国でつくられた漢字ではなく、日本で考案された、いわゆる国字というやつである。
東京堂出版の「国字の字典」という本で知った。
 
閘門(こうもん)という熟語に使われている閘の、なかが天地逆になった字。
ちなみに閘は、一字で水門を意味している。
 
 
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24. へのこ
 
古い川柳に、こういうのがある。
 
障子つきぬけ へのこにばあをさせ
 
知っている方も多いことだろう。
この“へのこ”、ふつうは陰茎と考える。
しかし、もういちど読んで情景を思い描いていただきたい。
 
障子を突き破るのは、たしかに屹立した陰茎である。
けれども、障子が大きく裂け、そこから顔を出して、ばあをしているのは、陰嚢ではないか!?
 
“へのこ”は本来、睾丸のことである。
門に由という国字を、前項「23. 和製漢字」でとりあげた。
この和製漢字は“ふぐり”とともに“へのこ”とも読み、睾丸を意味する。
それが、いつしか陰茎をさすようになってしまった。
 
この文章の主旨からははずれるけれど、ついでだから、“へのこ”が陰茎をさす端的な例として、ふたたび江戸時代の川柳をあげておく。
はじめのは、ちょっとすごい。
つぎのは、ちょっとかわいらしい。
 
ふとどきな女房へのこを二本持ち
 
貞女へのこの大小を知らぬなり
 
 
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25. 尻子玉
 
河童これは芥川龍之介が描いた河童。
芥川は何度も河童に出会ったものか、河童の絵を多く遺している。
 
河童がいたずらをして人の尻子玉(しりこだま)を抜く、という話がある。
この尻子玉を、てっきり睾丸のことと思いこんでいた。
残念ながら、ちがうらしい。
 
辞書を見ると、尻子玉は“肛門にあると想像された玉”と説明されている。
 
水死して時間がたつと人の肛門は大きく開く。
河童が尻から手を突っこんで尻子玉を抜きとったにちがいない――
そう昔の人は考えたのかもしれない。
 
近ごろあまり悪さをしなくなったようだけれど、河童に出会ったら用心するにこしたことはなさそうだ。
 
 
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26. 略称
 
東京の地名の上野を、粋がって逆からノガミと読む人がいる。
秋葉原をアキバとちぢめて言う人もいる。
逆さ読みはともかく、略称は、ほかにもいろいろある。
お茶の水=チャミズ
新宿=ジュク
池袋=ブクロ
高円寺=エンジ
阿佐ヶ谷=ガヤ
吉祥寺=ジョージ・・・
こう並べてみると、若い人がよく集まる場所だ。
やはりこれも一種の若者言葉なのかもしれない。
 
東京のはずれで多摩川のほとり、世田谷区にフタコタマガワというところがある。
二子玉川と書く。
ニコタマと略称される。
若者が大挙して出没するかどうかは知らない。
二子玉川という地名は二子玉川園駅そのほかに残るだけで、行政上は存在しない。
お茶の水もそうだ。
いわば伝統的?な通称である。
 
 
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27.

ダルマサンガ転ンダ
 
小学生のころの懐かしい遊びに、ダルマサンガ転ンダというのがある。
休み時間に学校のテラスなどでよくやった。
鬼が手で目隠ししてダルマサンガ転ンダととなえる。
みんなが鬼のほうへ歩を進める。
となえ終わって目を開けたとき、少しでも足が動いているのが見つかったらアウト。
鬼が何回かとなえているうちにゴールに入ればセーフ。
 
ここに一枚の切り抜きがある。
藤井智子さん(千葉市・主婦・35歳)という読者の投書だ。
1994年10月6日付「朝日新聞」の夕刊に載った。
彼女の実家のある山口県徳山市あたりでは、ダルマサンガ転ンダではなかった。
“坊サンガ屁ヲタレタ”
と言っていたという。
子どもに教えると「品がない」と大笑いになったけれど、いっしょに笑っていたお連れ合いも、かつて、
“坊(ボン)サンガ屁ヲコイタ”
と京都の町なかで叫んでいたそうである。
ま、どちらにしても、
“女の子が大きな声で言う言葉にしてはちょっと・・・、かもしれませんね。”
というのが投書の末尾だった。
 
大阪でも、
“坊(ボン)サンガ屁ヲコイタ”
と言ったという話を耳にしたことがある。
ただ、そのあとに、
“ニオイカイダラ臭カッタ”
とつけ加えることも多かったとか。
 
ここから睾丸の話に入る。
板坂元の「人生後半のための知的生きがい入門」という本には、こんなことが書かれていた。
 
“かくれんぼのとき鬼になった子が一から一〇まで数えるのにダルマサンガコロンダというのが標準らしいが、長崎ではアチャサンノキンタマと言っていた。”
 
アチャサンというのは長崎在住の中国人のことらしい。
差別語でもなんでもなくて、“親しみのこもった呼び方”だったと、中国南京生まれの板坂元は書いている。
なぜアチャサンの“キンタマ”なのかについては、説明がない。
 
“かくれんぼのとき”というのはちょっと首をかしげるけれど、まさに「所変われば・・・」の感がある。
 
 

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28. 誤読
 
李氏朝鮮末期の政治家で、1884年にクーデターを起こして失敗し、日本に亡命してきた人がいる。
金玉均だ。
現地読みは、“キム・オクキュン”らしい。
この名前を日本読みすると、“きん・ぎょくきん”。
これを、テレビであるアナウンサーが、“きんたま・ひとし”と誤って読んでしまった。
 
睾丸とはまったく関係ない話だが――
旧中山道と横書きされた原稿を、
“いちにちじゅうやまみち”
と読んだテレビの女性アナウンサーがいた。
 
 
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29. 看板
 
東京・御茶ノ水の靖国通りの、三省堂のある交差点のそば。
高いところに、黒地に金色で“金玉堂”と大書した看板が掲げられている。
あれを見上げるたびに妙な屋号だと感心する。
“きんぎょくどう”と読むのだろう。
画材屋さんである。
 
 
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30. ラクダの睾丸
 
こんな小咄がある。
むかしエジプトをひとりの科学者が旅していた。
小さな村の広場に来たとき、木陰で寝そべっていた村人に時間を尋ねた。
村人は、横になったまま、木につないだラクダの大きな睾丸を片手で持ち上げながら答えた。
「ちょうど12時だ」
科学者は驚いて、もういちど尋ねてみた。
村人は、やはりラクダの睾丸を持ち上げて答えた。
「12時でまちがいねぇ」
科学者は飛びあがって喜んだ。
「すごいぞ!
ラクダの睾丸で時間がわかるのか!
学会で発表すれば、えらい騒ぎになる」
すると村人は言った。
「なに言ってるんだ、おめえ。
あっちを見てみろ」
起き上がって指さす先には、村の時計台があった。
「おら、ラクダのきんたまがじゃまだったんだ」
 
 
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31. 風船唐綿
 
フウセントウワタという植物がある。
漢字では風船唐綿と書く。
白い花をつける。
実は薄緑色の風船状で、こまかな毛やトゲが生えている。
アフリカ南部原産。
別名を“風船玉の木”ともいう。
“きんたま草”という俗称も持っている。
 
 
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32. きんたまの語源補遺
 
きんたまの語源説を、ひとつ紹介する。
きんたまは、もとは“生の玉 (いきのたま)”と言った。
それが、
いきのたま→きのたま→きんたま
という具合に変わっていった、と。
 
 
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33. 物体
 
睾丸は楕円体。
縦4センチ、横3センチ、厚さ2センチ。
重さは約8グラム。
2個で16グラム。
この物体、ときどき邪魔になる。
とくに暑いと袋が蒸れる。
 
 
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34. 新メニュー
 
福島県石川郡は浅川町での話。
“あじもり”という弁当屋さんが、新しいメニューを開発した。
きんぴらごぼう、目玉焼き2個、しょうが、パセリが、ご飯の上に載っている。
きんぴらの“きん”と玉子の“たま”で“きん・たま丼”。
500円なり。
 
 
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35. セット・メニュー
 
牛丼のすき家。
きんぴら牛丼というメニューがある。
これに単品の“おんたま”(温泉玉子)をつけてくれと注文する。
と、接客の女の子は厨房に大きな声でこう告げる。
「きんたまセットひとつ~」
 
 
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36. 去勢牛
 
オスの牛を去勢すると肉がうまくなる。
第2次性徴期に入るまえに睾丸をとり去れば、男性ホルモンが分泌されずに肉がメスのように柔らかくなる。
 
ところで、とりだした睾丸はどうするか。
もちろん、なるべく新鮮なうちに、人間さまが食ってしまう。
西洋では、むかしから食通に好まれたという。
 
 
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37. 山の牡蠣
 
“仔牛のタマは、わたしも食ったことがある。”
と言うのは開高健。
対談集「水の上を歩く?」(集英社文庫)から引用しよう。
 
“マドリッドにルイス・カンデラスちゅう店がある。
こいつはスペインの大泥棒、石川五右衛門なんや。
泥棒のあい間にパブをやってたのが、いまでも残っててね。
そこで仔牛のタマを食ったのだけれども、イイダコみたいなもんやったな。
(中略)
アングロサクソンは確かマウンテン・オイスター――山の牡蠣と呼んでるがね。”
 

 
 
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38. 睾丸の串刺し
 
ロシアにシャシリクという料理がある。
おもに仔羊の肉のかたまりやトマト、たまねぎなどを丸ごと材料にする、野趣あふれた串焼き料理だ。
睾丸も串刺しにする。
肉食民族はむかしから、美食家でなくとも睾丸を食したようだ。
 
 
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38-2.
炉端焼き
 
炉端焼きの店で、ぼくも豚の睾丸を食べたことがある。
ピンポン玉ぐらいの大きさで、塩コショウをふりかけてむしゃぶりついた。
コリコリポクポクと豊かな歯ごたえがあった。
精がつきそうな気がした。
でも、とくにうまいものではない。
 
 
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39. 信楽の狸
 
俗に“狸のきんたま八畳敷き”などと言う。
商店や飲み屋さんの店頭に、で~んと飾られている信楽焼(しがらきやき)の狸の置き物も、きんたまが大きい。
見ていても安定感があっていい。
あれは、タヌキと他抜きとをかけた商売繁盛のしゃれ。
さらに、金が大きな袋に貯まるようにとの縁起かつぎらしい。
 
 
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40. 狸のきんたま八畳敷き
 
金箔をつくるには、あらかじめ薄く延ばした金を、さらに槌で叩いて広げてゆく。
このとき、むかしは狸のきんたま(陰嚢、ふぐり)の皮を鞣(なめ)したものに挟んで打ち延ばした。
一匁(もんめ)=約三・七五グラムの金が、八畳敷きの広さになる。
これが、いわゆる「狸のきんたま八畳敷き」の由来である。
現在は、狸のきんたまの皮は使わずに、和紙を使う。
 
――なお、蛇足ながら申し上げたい。
もし、この話を引用される方があるなら、ほかの資料などにも当たり、ことの真偽をよく確かめたうえでおやりになるようお勧めする。
 
 
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41. 民話1
 
“狸のきんたま八畳敷き”の民話は各地に残っている。
たとえば、佐賀県東松浦郡の玄海町に、こんな民話が伝えられている。
 
――むかし、小馬場という入り江に、ひとりの流れ者が住みついた。
男は、打ち上げられた木を拾っては火を焚いて寝ていた。
すると、毎晩のように女がやってくる。
これは、なにかの化け物じゃないかと男は疑い、ある日、焚き火のなかに石を投げ入れて出かけていった。
夜遅く戻ると、焚き火の横に、古狸が八畳敷きもありそうなきんたまを広げて寝ている。
男は焼け石をとりだすと、きんたまの上に落とした。
狸は飛び上がり、駆けだして崖から落ちて死んだ。
 
 
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42. 民話2
 
埼玉県新座市に伝わる「円光院の狸」の話。
 
――むかし、円光院という寺があった。
まわりは雑木林や藪で寂しい。
狸や狐がたくさん棲んでいて、寺の庭にも、よく入りこんでいた。
とくに狸の悪さがひどい。
人をばかにする、畑から芋は盗む、きんたまを八畳敷きに広げて人を包み殺してしまうのもいるという。
「なんとか懲らしめてやりたいものじゃ」
きんていという坊さんは、そう思っていた。
ある木枯らしの吹く晩のこと。
本寺である蓮光寺の小坊主がやってきた。
だが、妙に落ち着きがない。
「これはあやしい。ひょっとすると・・・」
きんていは素知らぬふりをした。
「なにか用かな」
「使いで近くまできたものの、遅くなってしまって・・・。
寒いし、ひもじいし、なにか食べさせてもらえませんか」
「それはごくろうさま。まあ、おあがり」
きんていは、囲炉裏に薪をくべ、温かいおじやをつくってやった。
小坊主は何杯もおかわりして腹いっぱいになり、囲炉裏のそばで居眠りを始めた。
すると、しっぽが生えてきた。
「やっぱり狸じゃった」
こんどは、きんたまが広がる。
見る間に八畳敷きになった。
きんていは囲炉裏で焼いておいた石ころをつまむと、八畳敷きに投げ込んだ。
「あちちちちっ」
狸は悲鳴をあげ、雑木林へと逃げていった。
それからは狸も、あまり悪さはしなくなった。
 
 
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43. 駄洒落
 
“狸の金玉で、またいっぱい”
こんな駄洒落がある。
お代わりをもう一杯、という意味だ。
狸の睾丸は大きくて股いっぱいだという俗信?を“また一杯”にかけている。
 
 
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44. 龍馬の手紙
 
きんたまという言葉が出てくる資料をひとつ見つけたので載せておく。
とくにおもしろいわけではない。
イゴッソウ坂本龍馬が、姉のハチキン乙女(おとめ)にあてた手紙だ。
ハチキンについては前に書いた。
手紙は文久3年(1863)3月20日付、表記は読みやすく変えてある。
 
“さてもさても、人間の一世はがてんの行かぬは元よりのこと、運の悪いものは風呂より出でんとして、きんたまをつめわりて死ぬるものもあり。
それと比べては私などは運が強く、なにほど死ぬる場へ出ても死なれず、自分で死のうと思うてもまた生きねばならんことになり、今にては日本第一の人物勝麟太郎殿という人の弟子になり、日々思いつくところを精といたしおり候。
国のため天下のため力を尽くしおりもうし候。
どうぞおんよろこびねがいあげ、かしこ。”
 
 
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45. 二・二六事件秘話
 
本を読んでいて、睾丸の話に出会うことは少ない。
意識的に探せばまた別だろうが、漫然と読んでいるかぎり、きんたま・陰嚢・ふぐりというような単語に出会うのはまれだ。
だから、全然予期していなかったときに目に飛びこんでくると、思わずにやりとしてしまう。
阿川弘之の「山本五十六」(新潮文庫・上下2巻)を読んでいたときのことだ。
鈴木貫太郎に触れた一節で“陰嚢”という活字がフワッとページから浮き上がって見えた。
場面は二・二六事件。
叛徒に襲撃されて絶体絶命の、きわどいシーンだ。
 
鈴木貫太郎は、 太平洋戦争で無条件降伏をしたときの首相である。
1936年(昭和11)に起きた二・二六事件の当時は侍従長だった。
内相の斎藤実(まこと)、蔵相の高橋是清らが国粋的改革を夢見る陸軍の一部青年将校たちに殺害され、鈴木侍従長も重傷を負った。
鈴木貫太郎が自宅にいて襲撃されたときの様子を、阿川弘之は「山本五十六」のなかで、こう伝えている。
――「俺が鈴木だ。話を聞くから、静かに」
そう制すると、叛乱部隊の軍曹は、
「閣下、ひまがありませんから撃ちます」
と言うなり引き金を引いた。
続いて三人の部下が撃った。
どの弾も一発で命取りになるところだったのが、不思議とみな急所をはずれた。
塩田広重という日本医科大学の学長が執刀して三発まで弾を取り出した。
ところが、翌日になって、どうももう一発残っているようだというので詳しく調べてみた。
鈴木の陰嚢がボールのようにふくれあがっている。
エックス線で診断したところ、四発めの弾丸は、男の急所をはずれて骨盤の上にとどまっている。
陰嚢の膨張は、ひどい内出血によるものだった。
そこで塩田博士がふたたび手術をし、鈴木侍従長は一命をとりとめた。
このとき塩田博士は、こんな一句をものした。
 
鉛だま 金の玉をば通しかね
 
睾丸とは直接関係ない逸話を、ひとつ付け加えておきたい。
敗戦後に発表された志賀直哉の随筆「鈴木貫太郎」に、おおよそこんな話が書いてある。
(「展望」1946年3月、引用は岩波版全集より)
 
――何発も弾を撃ち込まれたとき、そばに夫人がいた。
青年将校たちがとどめを刺そうとするのを、この夫人が押しとどめた。
「老人だから、それだけはやめてもらいたい」
蹶起部隊は、そのまま引き上げていった。
すると鈴木は、熊に襲われた旅人みたいに、
「もう逃げたかい」
と言って身を起こした。
 
夫人の気丈さはあっぱれだ。
土佐のハチキンも顔負けの女性である。
鈴木貫太郎もまた人並みはずれた肝っ玉の持ち主だった。
 
この話をふまえて阿川弘之は、人並みはずれた肝っ玉の持ち主でもなければ、この事件から九年後に、宰相として太平洋戦争を終結に持ちこむ人とはならなかったろう、と鈴木貫太郎の逸話を締めくくっている。
 
 
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46. ぶら金
 
阿川弘之の「山本五十六」に、五十六本人の睾丸に関する話題がないかと探したが、見つからない。
それでも阿川弘之という作家は、人間くさいエピソードを、丹念に調べ上げた膨大な事実と織りなして伝記をつづるわざにたけた人だから、文庫本の上下2巻にわたる「山本五十六」も、らくらく読み進めることができる。
“ぶら金”などという下世話な単語も使っている。
 
太平洋戦争開戦時の聯合艦隊の旗艦だった長門に、黒島亀人という参謀がいた。
位は大佐、真珠湾攻撃の作戦を中心になって練った人で、
“ハワイ奇襲をふくむ、第一次作戦計画は、数字を踏まえてやったら、とてもああは出来るものではない。
あれはみな、黒島のアブノーマルな頭の中から引き出され、強引に書き上げられたものだった”
そう評されるだけあって、かなりの変人だったらしい。
司令長官といっしょに飯を食ったことがないとか、書類が積み上げてあってもいっさい見ないといったたぐいの伝説のなかに、
“用が出来ると、平気でぶら金で艦内を歩くそうだ”
という話柄を阿川弘之は書きとめている。
 
“ぶら金”は、いまで言うフリチン。
当時はこう言ったものらしい。
海軍用語だろうか、一般用語だろうか。
いつから死語になったのか、何種類かの死語辞典にあたってみても出てこない。
「広辞苑」には、ぶら金もフリチンも出てこない。
こういう言葉の変遷を記した、しっかりした辞書があってもいいのじゃないかと真面目に考えてしまった。
 
 
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47. きんたま握り
 
真珠湾攻撃を成功裡に終えた聯合艦隊司令長官の山本五十六だったけれど、しかしこんな批判もあった。
戦後になってからの話だが、敗戦時に大本営海軍部参謀で少将だった石川信吾という人は、アメリカが真珠湾奇襲を「横面を張って激昂させただけの作戦」と評していることなどを引き合いに出し、
“山本は軍政家としては傑出していたが、用兵家としては、きんたま握りの幕僚ばかり可愛がって、ハワイもミッドウェーも皆失敗で、一つも及第点はつけられない”
と言ったそうである。
石川信吾という人は、いわゆる艦隊派の一人。
戦前の日・米・英を主とした軍縮条約に反対して建艦競争を唱道した人で、同じ海軍でも条約派の山本五十六とは立場が異なる。
だから、この批判は割り引いて聞く必要があるだろうと阿川弘之は書いている。
 
それはさておき、“きんたま握り”である。
辞書には普通“握り金玉”もしくは“握り睾丸”と出ている。
「広辞苑」では“握り銀玉(ぎんたま)”になっている。
ふところに手をつっこんだまま何もしないことを比喩的に表現した言葉だ。
小学館の「故事・俗信・ことわざ大辞典」には、こんな文例がある。
 
“握り金玉 朝風呂丹前 金火鉢”
 
ふところ手をして何もせず、手はせいぜい睾丸を握るくらい。
朝風呂に入り、丹前姿で金火鉢を前に大あぐら。
道楽者を諷して言う。
 
“金火鉢”は銅や鉄でできた火鉢。
火鉢には木製もあるが、ぼくが子どもじぶんに火鉢といえば陶器に決まっていた。
金属製の火鉢は見たことがない。
股ぐらに抱えて金玉火鉢の快をむさぼることも熱くてできそうもないが、そのへんはどうだったのだろう。
 
引導の偈(げ)を案じつつ股火鉢   静雲
 
いっけさんという匿名氏に聞いた話だが、
山口県で“握り金玉”とは、大変なケチのことを指すという。
 
 
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48. きんたま探り
 
阿川弘之の「山本五十六」に話を戻そう。
この作品には、もう一ヶ所、睾丸に関する話題がある。
山本五十六ひきいる聯合艦隊がジャワ島の連合国軍を打ち負かしたとき、第五戦隊司令官に高木武雄という少将がいた。
阿川弘之は海軍予備学生として台湾で基礎教育を受けた。
その部隊に、進級して馬公警備府の司令長官になっていた高木中将がしばしばやってきて話していったのが印象に残っているという。
“あきらめましたよ  どうあきらめた  あきらめられぬと  あきらめた”
などという妙な都々逸を教えてくれたりしたからだが、また、こんな話もした。
 
――戦場でつくづく感じたことは、上がる、どうしても上がる。
上がると智慧は出ない。
思考力、判断力がゼロに近くなる。
まず、落ちつくことが肝要だ。
敵を見たら、水筒の水を一口飲め。
それから睾丸が二つあるか、さぐってみろ。
 
探られたり握られたり、睾丸もなかなか忙しい。
 
 
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49. 上がったり下がったり
 
精神的に上がると、睾丸も上がる。
陰嚢が収縮して睾丸が上がってしまう。
落ち着くと陰嚢が伸びて睾丸も下がる。
きんたま・陰嚢は男の象徴であり、精神状態をあらわす器官でもある。
 
 
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50. 縮み上がる
 
恐怖を感じると、きんたまが縮み上がる。
陰嚢が収縮したまま、なかなか下りてこない。
ひどいときは睾丸が腹腔に入り込んでしまうが、平静にもどれば下りてくる。
 
あるテレビ局が猿で実験したそうだ。
猿を立たせて、そばで手を叩く。
すると睾丸がヒクヒク上がるのが見えたという。
 
寒くても縮み上がる。
膀胱が圧迫され、おしっこが近くなる。
 
 
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51. きんちぢみ
 
夏でも冷たい水に入ると縮み上がる。
山口県阿武郡の旭村――
いまは萩市になったが、そこに、“きんちぢみの清水” がある。
萩往還に沿って冷たい清水が湧いていたところから、俗にそう呼ばれるようになった。
ただし、いまはほとんど涸れているらしい。
むかし、一軒の茶屋があって、名物は“きんちぢみのところてん”だった。
きんちぢみの清水で、きんきんに冷やしてある。
食べ物の語感としてはどうかと思うが、夏は涼しそうだ。
 
 
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52. むじな
 
“むじな”というのは狸の異称である。
漢字では狢・貉などと書く。
秋田県の角館地方に、こんな昔話が伝わっている。
 
――あるところに、五右衛門というカンジキづくりの爺さまがおった。
山でいつものようにカンジキをこしらえていると、
「五右衛門、五右衛門」
と呼んで、爺さまの火のそばへ大きなむじながやってきた。
「なんだ、むじなか。
きょうは寒いがらあだれ」
と言うと、むじなは火のそばへ寄ってぬくまった。
そして気持ちがよくなったもんだから、そろそろと持ち前の大きな金玉をくつろげだした。
「いつもの癖を出しやがったな」
爺さまはそう思って、カンジキを曲げていた手を放すと、強い小柴がパチンとはじけ、むじなの金玉に当たった。
むじなはあっと言ってひっくり返り、死んでしまった。
 
むじな=狸の金玉も急所らしい。
急所は、やはり小さく隠しておいたほうがよさそうだ。
 
 
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53. けえっぺ
 
金玉のことを“けえっぺ”と呼んでいた地域がある。
東北に、こんな昔話が残っている。
 
――昔むかし、上の家の爺さまと下の家の爺さまが川に竹籠を仕掛けた。
上の爺さまがつぎの朝早く行ってみると、自分のには大きな木の根っこばかりごろごろ入っている。
それを下の爺さまの竹籠にぶち込んで、なかに入っていた雑魚をみんな持ち帰った。
下の爺さまが行ってみると根っこがごろごろ入っている。
「ああ、これぁ日に干して火にくべるといいもんだ」
いいかげんに乾いたから斧で割ろうとすると、根っこのなかから声がする。
「爺さま、爺さま。
静かに割れ、静かに割れ」
これぁ不思議なこともあるもんだと思って静かに割ると、なかからめんこい犬こが出てきた。
爺さまは婆さまとふたりで大事に育てた。
椀で食わすと椀のよう、手桶で食わすと手桶のよう、臼で食わすと臼のように大きくおがった(成長した)。
犬こが、あるとき言った。
「爺さま、爺さま。
きょうは山さ鹿捕りに行ぐべ」
犬こは先に立って山さ馳せていく。
そして、こう呼べと爺さまに言う。
「あっちの鹿も、こっちゃ来う。
こっちの鹿も、こっちゃ来う」
爺さまが呼ぶと、あっちの鹿も、こっちの鹿も駆けてきた。
犬こはそれを、みんな噛み殺してしまった。
そうして背負いきれないほど背負って町で売り、米や魚を買って帰った。
婆さまとふたりして喜んでいると、上の家の婆さまが来た。
「お前たち、なじょしてそうなったべ」
と言うから、こうこうこういうわけだと話してやった。
「それでぁ、俺の爺さまも鹿捕りにやるべ。
犬こ貸してけれ」
そう言って連れていった。
上の家の爺さまは犬この首に縄をつけて引っ張っていき、鹿を呼んだ。
「あっちの鹿も、こっちゃ来う。
こっちの鹿も、こっちゃ来う」
すると、鹿が駆けてきて、上の爺さまのけえっぺ(睾丸)を角の先でぶっすり刺したので死んでしまったとさ。
 
 
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54. 誤植
 
あるフランスの作家が新聞にエッセイを書いた。
題して“Mes Coquilles”。
訳すと,“わたしの誤植”。
そのエッセイが載った新聞を見て作家は唖然とした。
――Mes Couilles
q が抜けている。
誤植について書いたエッセイのタイトルが誤植されてしまった。
それだけでも驚いたけれど、よりにもよってこんな誤植になるとは・・・
訳すとどうなるか?
“わたしの睾丸”
 
 
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55.
サラミ
 
いっけさんという匿名氏に聞いた話――
イタリアはウンブリアの名産に、パッレ・ディ・ノンノというサラミ・ソーセージがある。
同じ名前で、チョコレートとチーズを丸めて揚げた菓子もある。
訳すと、おじいちゃんの睾丸。
 
そういえば、コリオーネ・ディ・ムーロという名前のサラミもあった。
これは訳してロバの金玉。
 
パッレ(palle)といい、コリオーネ(coglione)という。
イタリアには睾丸を指すことばが多いのかもしれない。
 
 
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56. なぞなぞ
 
カップルがドライブにでかけた。
途中で事故を起こして助手席の女は死んでしまった。
男は無事だった。
なぜか?
 
う~ん、簡単すぎる。
 
答え――
男はタマタマついていた。
 
 
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57. 地名
 
インドネシアのバリ島に、キンタマーニという高原がある。
キンタマーニ郡に属してキンタマーニ村というのもある。
きんたまに毛が生えたほどの小さな村だろう・・・行ったことはないが。
キンタマーニは Kintamani と綴る。
語源は不明。
 
 
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58. 美少年とタマ自慢
 
むかし、奥多摩へ遊びに行った。
料理屋に美少年とタマ自慢とが並んでいて、とりあわせの妙に唸った。
 
美少年は熊本の酒。
タマ自慢は多摩の酒。
 
ほんとうは「多満自慢」と書き、多摩地方の心をうたいつつ、多摩の自慢となるよう名づけたという。
 
蔵元の石川酒造は福生市にある。
「たまの慶(よろこび)」という銘酒や「多摩の恵」という地ビールも造っている。
 
 
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Kougan no Hanashi


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