言葉ノカケラ 宮古篇   じん



† かぜっこ

浄土ヶ浜の石浜さ
打ぢ上がってだ
かぜっこひとづ
からから乾びで塩吹いで
からから殻っこ風に鳴る
ひろって海さ投げだっけ
波っこひとづゆさゆさゆさる
波っこふたづとぷとぷとぷん
かぜっこ帰れ海んなが
かぜっこ帰れ海のそご

          *かぜはウニのこと



† かぜの子

浄土ヶ浜のしらすなに
うちよせられたかぜの子が
かたくからびて塩ふいて
風にふるえてかんころろ
海にかえしてあげたなら
さざなみひとつのりこえて
波のまにまにゆらゆらら
かぜの子かえれ海ふかく
かぜの子かえれ海のそこ

   (「かぜ」はウニ。
   浄土ヶ浜は白砂でなく白い石の浜。
   ここでは口をついて出てきたままに
   「しらすな」と書いた。)





ふるさとの毛蟹のみその深さかな





黙々と雪ふりつもる毛がに食う



† 臼木山

片栗の花の寒さや沖の風



† 十字架山

十字架山の十字架は
大きな木の十字架と
一段下にいくつかの
小さな石の十字架と
思い出と藪に埋もれ
桜ふぶきの夢に眠る



† カラスの巣

旧八幡通りの旧八分団の
火の見やぐらのてっぺんの
半鐘 円(まる)屋根 針金の
巣づくりしたのはカラスです
八幡山から引っ越して
町のカラスになったのに
見上げてみればいつも留守
カラスのカン公
モダンな住まい
かあかあカラス
からからカラ巣



† 仙人

黄葉に埋まった山奥に
仙人は独り住んでいる
妻もない子供もないが
犬一匹に猫二匹
電気も電話もないけれど
小さなトラックを持っている
カスミを食っては生きられないので
畑を耕し木の実を食う
月に四、五日 町へ出る
金食い虫のトラックに乗って
古い家を壊しにゆく
山のようなごみから
目ぼしいものを持ち帰る
ごみは息を吹き返し
仙人の家となり家具になる
満天に星がまたたく夜
仙人は宇宙と交信する



† 青に還る

死んだら青い空になる
死んだら青い海になる
燃え殻は海に捨ててくれ
死んだら空の青に還る
死んだら海の青に還る



† 常安寺の坂

常安寺の坂(さが)ぁ
登ってきたがえ
久しぶりだったぁ
何十年ぶりだべが
歩ぐにはこえぇ坂だった

その坂をす
車がいっぺぇ
登ったり下りだりしでだったぁ
夏だっけぇ墓参りだべがど思って
焼ぎ場にいだ人さ聞いでみだっけば
いやぁ 抜げ道だがす 佐原のほうへ――
って言ってだったぁ
むがすは土のでこぼこ道で
まわりは木ど草べえりで
ひっそりしてだったぁもんだぁが
ほに変わったがねんす――

常安寺の坂ぁ
こわがった
汗ぬぐって真っ青な空
あおいで見だっけば
煙(けむ)っこが上がってだった
焼ぎ場の煙突がら
もぐもぐ もぐもぐど
煙っこが上がってだった



† 2004.7.27

さるすべり父のよすがの木となりぬ



† 舘ヶ崎

しがみつき
へばりつき
一本の樹木よ
断崖のてっぺんに
おまえはひとり立っている
吹きすさぶ海風に堪え
わずかな土をつかみ
硬い岩肌をうがち
懲りもせず
恨みもせず
自分の命を生きている
しがみつき
へばりつき
一本の樹木よ
おまえは天に愛されている



† 記憶の光

海岸へ抜けるトンネルは
遠い記憶のかなたに
ひっそり延びていた

潮騒
歓声
はるか夏の日の輝き
置き忘れてきた
せつないときめき

脈打つ鼓動は告げた
このトンネルを抜ければ
あの遠い光を浴びれば
時を超えられるはずだと



† 浄土ヶ浜

海にそびえる岩山よ
大きく どっしり
風雨にも寒暑にも
怒濤にも揺るがず
おまえは生きている
在るものは みな生きている
石ころだって屍だって
みんな生きている
岩山よ
おまえに対していると
そんな気がしてくるんだ





岬の孤独



† 海辺

夏の終わりに
最初の秋風が
裸の胸を撫で
せつなさに
からだ震えた
遥かな日の海辺



† 八幡河原

雲雀よ 雲雀 おまえは雲雀
かがやく青の高みへと
翔けのぼったまま帰ってこない
日輪にとじこめられ
啼き声のみが
果てなく響く

雲雀よ 雲雀 おまえは雲雀
天からすっと舞いおりて
草の海に身をくらました
探しても探しても
おれはおまえを
見失ったままだ



† 雪

空にとけゆく雪がある
海にきえいる雪がある
町にふりつむ雪がある
しんしんと
おれの心に
ふりつもれ雪



† 八幡通り

雪が空から落ちてくる
闇の奥から下りてくる
ただ限りなく湧いてくる
限りないはずはないのだが
雪は限りなく降ってくる
夜が白く 深くなる



† あわゆき

あわゆき こゆき
てのひらにうけた
あわゆき こゆき
ほっぺで とけた



† たそがれ

もういいかい
まあだだよ
待ってるうちに陽が落ちた
がらんどうの空地 しのびよる闇
もういいよ……と
だれかが声をあげたなら
笑ってぱっとかけだそう
それまでは涙を
てのひらに隠していよう



† 末広町

かあさんさがして町へ出た
家に帰るといなかった
買いもの行ったかあさんを
さがして町をさまよった
もう会えないとべそかくと
よそよそしくも町は
たそがれた












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